カロリーメータ(熱量計)の技術解説:原理、種類、および熱流センサとの差異
はじめに
この記事では、熱測定の主要な手法である熱量測定(カロリメトリー)で使われる、カロリーメータ(熱量計)について詳しく解説します。
カロリーメータの基本原理、代表的な種類、そしてサーモパイル方式の熱流センサとの技術的な違いを明確にすることで、測定対象に応じた適切な機器を選定するためにお役立てください。
用語の定義:センサとトランスデューサ
熱測定デバイスを理解する上で、まず「センサ」と「トランスデューサ」という用語を、国際計量用語集(VIM)に基づいて見ていきましょう。
測定されるべき量を運ぶ現象、物体、または物質から直接影響を受ける測定システムの要素です。
測定に使われる装置で、入力量に対して特定の関係性を持つ出力量を提供するものです。
センサは単に入力量に反応する「要素」であるのに対し、トランスデューサは入力量との既知の関係に基づき、定量的な信号を出力する「装置」全体を指します。したがって、この記事で扱うカロリーメータや熱流センサは、厳密には「熱流トランスデューサ」に分類されます。
カロリーメータ(熱量計)の基本原理と測定対象
カロリーメータ(熱量計)は、化学的、機械的、電気的プロセスにおいて、吸収または放出される熱の量を測定するために使われるトランスデューサです。この測定プロセスを熱量測定と呼びます。
カロリーメータが測定するのは、時間とともに熱流束が変化する「過渡熱伝達 (Transient heat transfer)」です。 この特性から、カロリーメータは比較的短い時間の中での熱量の総変化を捉える測定に適しています。
ボンブカロリーメータは、密閉された頑丈な容器(ボンブ)の中でサンプルを完全燃焼させ、その際に発生する熱量を測定する装置です。
発生した熱は周囲の水を温め、その水の温度変化、質量、比熱容量から、簡単な計算式でサンプルの総熱量を算出できます。主に食品やバイオマスといった固体・液体サンプルの発熱量測定に用いられます。
スラグカロリーメータは、特に放射熱流束を測定するために設計されたカロリーメータの一種です。(原理的に「カロリーメータ(熱量計)」に分類されますが、計測的には熱流束センサになります)
熱容量の大きい素材(多くは銅)でできた「スラグ」が、黒いコーティングによって放射熱を吸収します。スラグは断熱材によって熱が逃げないようになっており、内部に設置された熱電対がその温度変化を測定します。この温度変化から熱流束を計算できます。
このタイプは、宇宙船の推進システムの測定など、極度の熱流束に短時間さらされるような特殊な環境で利用されます。
サーモパイル方式熱流センサとの技術的差異
カロリーメータが過渡的な熱量を測定するのに対して、サーモパイル方式の熱流センサは「定常熱伝導 (Steady-state heat transfer)」、つまり一定の熱流束を測定します。
サーモパイルは、複数の熱電対を直列に接続して作られており、センサの表面と裏面の間の温度差に比例した電圧信号を生成します。この定常的な熱の流れを連続的にモニタリングできるため、建物の壁から逃げる熱を測定するなど、断熱材の効率を評価するような場面で活躍します。
まとめ
カロリーメータ(熱量計)とサーモパイル方式熱流センサは、どちらも熱の流れを測るトランスデューサですが、その測定対象と原理には明確な違いがあります。
- 化学反応などで発生・吸収される「熱の総量」を測定します。
- 時間とともに変化する熱(過渡熱伝達)を捉えるのに適しています。
- 安定して流れ続ける「熱の流れ(定常熱伝導)」を測定します。
- 建物の断熱性能の評価など、連続的なモニタリングに利用されます。
測定の目的が「プロセス全体の総熱量を知ること」なのか、「定常状態での熱の流れを監視すること」なのかを明確にし、適切なデバイスを選ぶことが非常に重要です。
この記事について
本記事は、熱流束センサーのリーディングメーカーであるHukseflux社の公開技術情報に基づいております。その情報をもとに、同社の日本国内正規代理店であるクリマテック株式会社が、日本のユーザー様向けに独自の解説、および国内での具体的な活用シーンや知見を加えて編集しました。
この記事の編集者
Hukseflux社製品の日本国内代理店として20年以上にわたり担当。メーカーの最新技術情報と、日本の製造業・研究機関における数百の導入事例に基づき、お客様の課題解決に最適なソリューションを提案している。メーカー本社の技術トレーニングを毎年受講し、常に最新の知見を取り入れている。