熱流センサ【関連技術コラム:2】

放射熱伝達と対流熱伝達の分離測定ガイド

はじめに

製品の性能やエネルギー効率を左右する「熱伝達」は、熱が移動する現象全般を指します。この熱伝達には主に「伝導」「対流」「放射」の3つの形態がありますが、特に物体の表面で起こる熱の移動は、対流熱伝達と放射熱伝達が複雑に関係し合っています。

より高度な熱設計や熱対策を行うためには、これらの熱伝達を個別に評価することが不可欠です。

本記事では、熱流束センサーを用いて放射熱伝達と対流熱伝達を分離して測定する具体的な手法について、冷蔵庫の壁面を例に挙げて解説します。

対流熱伝達と放射熱伝達の基本

分離測定の方法を解説する前に、まず2つの熱伝達の形態を定義します。

対流熱伝達 (Convective Heat Transfer)

対流熱伝達は、固体と、それに接する流体(液体や気体)との間で交換される熱エネルギーの移動です。熱は常に高温側から低温側へ向かいます。ファンのように外部要因で強制的に流体を動かす「強制対流」と、温度差による密度変化で自然に流れが生まれる「自然対流」があります。

放射熱伝達 (Radiative Heat Transfer)

放射熱伝達は、物体が持つ熱エネルギーが電磁波の形で放出・吸収される現象です。真空中でも熱が伝わるのが特徴で、太陽からの熱などがその代表例です。物体の温度が高いほど、放出される電磁波の波長は短くなります。

放射熱伝達と対流熱伝達の分離測定原理

この2つの熱伝達を分離する鍵は、表面の放射特性(放射率)を意図的に変えることにあります。Hukseflux社製の黒と金のステッカーは、この原理を応用したツールです。

黒ステッカー(高放射率)を貼ったセンサー

放射熱伝達と対流熱伝達の両方を効率よく捉えるため、「合計の熱流束」を測定します。

金ステッカー(低放射率)を貼ったセンサー

放射熱伝達をほとんど反射するため、主に「対流熱伝達による熱流束」を測定します。

この2つのセンサーの測定値の差を計算することで、放射熱伝達による熱流束を算出できるのです。

測定例:冷蔵庫壁面における熱伝達の分析

課題

省エネ性能向上のため、冷蔵庫の壁面から内部へ侵入する熱を分析します。この熱侵入が放射熱伝達と対流熱伝達のどちらに起因するのかを特定し、効果的な設計に繋げることが目的です。

測定手順とデータの解釈

熱流束センサーを2つ用意し、それぞれに黒・金のステッカーを貼り、冷蔵庫の外壁に並べて設置します。測定された熱流束(HF)から、放射熱伝達成分は以下の式で求められます。

  • HF黒ステッカー​ = HF対流熱伝達 ​+ HF放射熱伝達
  • HF金ステッカー ​= HF対流熱伝達
  • HF放射熱伝達 ​ = HF黒ステッカー​ − HF金ステッカー

この結果、放射熱伝達の影響が大きいと判明すれば、外装を反射率の高い白色や光沢のある金属にすることが有効な対策となります。一方、対流熱伝達の影響が大きければ、空気の乱流を抑えるために表面を滑らかに設計することが有効です。

より高精度な測定を目指すために

上記の計算は、ステッカーが理想的な光学特性を持つという仮定に基づいています。一般的な用途には十分ですが、厳密な測定では以下の点を考慮する必要があります。

ステッカーの光学特性の限界

ステッカーの吸収率や反射率は完璧ではなく、下のグラフのように放射の波長によって変化します。

波長ごとの黒および金ステッカーの反射係数
センサーの温度と感度

センサー自体の熱抵抗や、動作温度による感度の変化も、測定値に影響を与える可能性があります。

まとめ

放射熱伝達と対流熱伝達を分離して測定することで、熱問題の根本原因を深く探り、データに基づいた的確な製品設計や対策が可能になります。今回ご紹介した方法は、そのためのシンプルかつ効果的なアプローチであり、より高度な熱解析を実現します。

この記事について

本記事は、熱流束センサーのリーディングメーカーであるHukseflux社の公開技術情報に基づいております。その情報をもとに、同社の日本国内正規代理店であるクリマテック株式会社が、日本のユーザー様向けに独自の解説、および国内での具体的な活用シーンや知見を加えて編集しました。

この記事の編集者

クリマテック株式会社 熱流センサ担当

Hukseflux社製品の日本国内代理店として20年以上にわたり担当。メーカーの最新技術情報と、日本の製造業・研究機関における数百の導入事例に基づき、お客様の課題解決に最適なソリューションを提案している。メーカー本社の技術トレーニングを毎年受講し、常に最新の知見を取り入れている。

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