熱流センサ【関連技術コラム:5】

サーモパイル(熱電堆)とは?熱電対との違いと動作原理を解説

はじめに

サーモパイルは、熱流束センサーや日射計といった高精度な計測機器に欠かせない、心臓部とも言える部品です。日本語では熱電堆(ねつでんたい)とも呼ばれ、その基本的な機能は「温度差」を「電圧」に変換することです。

この記事では、サーモパイルがどのように機能するのか、その基本構成要素である「熱電対」から順を追って分かりやすく解説します。

Step 1. サーモパイルの基本部品「熱電対」

サーモパイルを理解するには、まずその部品である熱電対を知る必要があります。

熱電対は、電気伝導率が異なる2種類の金属をつなぎ合わせた構造をしています。この接合部に温度差が生じると、ゼーベック効果という物理現象により、温度差に比例した電圧が発生します。

(∆V: 発生電圧, S1/S2: ゼーベック係数, ∆T: 温度差)

図1のように、片方の接合部(測定点:Tjunction)と、もう片方の基準となる点(基準点:Tref)の間に温度差があれば、電圧Vとして測定できます。しかし、1つの熱電対で発生する電圧はミリボルト(mV)単位と非常に小さく、この微小な信号を正確に測定することは困難が伴います。

図1 熱電対の模式図

Step 2. 信号を増幅する「サーモパイル(熱電堆)」

この熱電対の弱点を克服するのがサーモパイル(熱電堆)です。

サーモパイルは、多数の熱電対を電気的に直列接続した構造になっています。熱電対を直列に繋ぐことで、個々の熱電対が発生させる電圧が足し合わされ、最終的な出力電圧がN倍(N=熱電対の数)に増幅されます。

(∆V: 発生電圧, S1/S2: ゼーベック係数, ∆T: 温度差)

これにより、単一の熱電対よりもはるかに高感度で、温度差の変化を捉えやすいセンサーが実現します。 図2は、熱抵抗層を挟んで熱電対が直列に接続されたサーモパイルの構造を示しています。

図2 サーモパイルの接続図

また、ゼーベック効果を利用しているため、サーモパイルは外部電源を必要としない「パッシブセンサー」であることも大きな利点です。

サーモパイルの応用例:日射計

サーモパイルは、その高感度な特性を活かして、熱流束センサーだけでなく、日射計のような精密機器にも使われています。

日射計では、黒色コーティングされたサーモパイルの受光面に太陽光が当たると、光エネルギーが熱に変換され、温度が上昇します。これにより、受光面(高温側)と日射計本体(低温側)との間に温度差が生じ、太陽放射の強さに比例した電圧が発生します。

この電圧を正確に校正することで、気象研究や太陽光発電(PV)システムの性能監視に不可欠な、太陽放射照度を高い精度で測定できるのです。

CHF-SR300-D1日射計。熱電堆が日射計測のために内蔵されている。

まとめ

  • 熱電対は、2種類の金属を使い、ゼーベック効果によって温度差を微小な電圧に変換する基本部品です。
  • サーモパイル(熱電堆)は、その熱電対を多数直列に接続することで、出力電圧を増幅させ、高感度な測定を可能にしたセンサーです。
  • サーモパイルは、その高感度・パッシブという特性から、熱流束センサーや日射計など、高精度な計測機器のコア技術として広く利用されています。

この記事について

本記事は、熱流束センサーのリーディングメーカーであるHukseflux社の公開技術情報に基づいております。その情報をもとに、同社の日本国内正規代理店であるクリマテック株式会社が、日本のユーザー様向けに独自の解説、および国内での具体的な活用シーンや知見を加えて編集しました。

この記事の編集者

クリマテック株式会社 熱流センサ担当

Hukseflux社製品の日本国内代理店として20年以上にわたり担当。メーカーの最新技術情報と、日本の製造業・研究機関における数百の導入事例に基づき、お客様の課題解決に最適なソリューションを提案している。メーカー本社の技術トレーニングを毎年受講し、常に最新の知見を取り入れている。

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