熱流束(熱フラックス)とは?温度や熱との違い、3つの熱伝達を解説
はじめに
「熱い」と感じるとき、私たちは一体何を感じているのでしょうか。物体の「温度」そのものでしょうか、それともそこから伝わってくる「熱」の移動量でしょうか。
これらの現象を科学的・工学的に正しく理解するためには、「温度」「熱」そして、この記事のテーマである「熱流束(ねつりゅうそく)」の違いを把握することが非常に重要です。
本記事では、「熱流束とは何か」という基本から、その測定の重要性、そして熱の伝わり方までを分かりやすく解説します。
熱流束(熱フラックス)とは?
「熱流束」を理解するために、まずは「フラックス(Flux)」という言葉の定義から始めましょう。
フラックス(Flux)とは、ある一定の時間内に、特定の面を通過または移動する量のことを指します。この「量」は、電気や磁気、そして熱などの形で表されます。
この定義に基づき、熱流束(または熱フラックス)は、一定の時間内に、一定の面積の表面を通過する熱の輸送量(熱の移動速度)と定義されます。単位は通常、ワット毎平米(W/m²)で計測され、熱がどちらの方向にどれくらいの勢いで流れているかを示す「大きさと向きを持つベクトル量」です。
熱流束と「温度」「熱」の違い
「熱流束」「温度」「熱」は密接に関連していますが、それぞれ異なる物理量を指します。
物体を構成する原子の振動の激しさ(運動エネルギーの量)を示す尺度です。いわば、その物体が持つ「熱の状態」を表します。単位は摂氏(℃)やケルビン(K)です。
温度差のある物体の間で移動するエネルギーそのものを指します。単位はジュール(J)です。
その熱エネルギーが、単位時間あたりに、単位面積をどれだけ通過したかを示す「流れの勢い」です。
熱を「水」、温度を「水位」に例えるなら、熱流束は「単位面積あたりの水の流量(流れの速さ)」と考えるとイメージしやすいでしょう。
熱流束(熱伝達)の3つのタイプ
熱が伝わる現象(熱伝達)は、熱流束の発生メカニズムによって以下の3種類に分類されます。
物体内部や、接触している物体同士の間を、熱が直接伝わっていく現象です。高温側から低温側へと熱が移動し、最終的に両方の温度が同じ「熱平衡」の状態になるまで続きます。
空気や水といった流体(気体・液体)の移動によって熱が運ばれる現象です。やかんの底で温められた水が上昇し、冷たい水が下降することで全体が温まるのが代表的な例です。
熱が電磁波として空間を伝わる現象です。伝導や対流と異なり、間に何もない真空中でも熱を伝えることができます。太陽の光や、火のそばで感じる暖かさがこれにあたります。
実際の熱移動は、これら3つの形態が複雑に組み合わさって発生します。
なぜ熱流束の計測が重要なのか
温度だけでなく「熱流束」を正確に測定することで、様々なメリットが生まれます。
- 断熱材の性能を正確に評価できる
- 製品や建物におけるエネルギー損失箇所を特定できる
- よりエネルギー効率の高いソリューション開発に繋がる
このように、熱流束の計測は、研究開発から製品設計、省エネ対策まで、幅広い分野で不可欠な技術となっています。
まとめ
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温度は熱の「状態」、熱は移動する「エネルギー」、そして熱流束はその「流れの勢い」を示す指標です。
- 熱流束(熱伝達)には「伝導」「対流」「放射」の3つのタイプがあります。
- 熱流束を正確に測定することは、エネルギー効率の改善や高機能な製品開発において非常に重要です。
| 項目 | 熱 | 熱流束(熱フラックス) | 温度 |
|---|---|---|---|
| 定義 | 熱のエネルギーそのもの | ある表面を通過する熱の速度 | 物体が熱いか冷たいかを表す。物質内部の原子の運動エネルギー量。 |
| 役割 | ー | ー | 熱流束(熱輸送)の駆動力となる。 |
| 単位 | ジュール (J) | ワット毎平方メートル (W/m²) | ケルビン (K), 摂氏 (°C) |
| 計測装置 | カロリーメータ | 熱流束センサー | 温度計 |
| 記号 | Q | φ | T |
この記事について
本記事は、熱流束センサーのリーディングメーカーであるHukseflux社の公開技術情報に基づいております。その情報をもとに、同社の日本国内正規代理店であるクリマテック株式会社が、日本のユーザー様向けに独自の解説、および国内での具体的な活用シーンや知見を加えて編集しました。
この記事の編集者
Hukseflux社製品の日本国内代理店として20年以上にわたり担当。メーカーの最新技術情報と、日本の製造業・研究機関における数百の導入事例に基づき、お客様の課題解決に最適なソリューションを提案している。メーカー本社の技術トレーニングを毎年受講し、常に最新の知見を取り入れている。