熱流センサの選定ガイド
熱流センサは、熱流束(表面を通過するエネルギーの流れ、単位:W/m²)を測定するセンサであり、熱流束を電気信号に変換し、測定および表示を可能とします。
本選定ガイドでは、Huksefluxの幅広い熱流センサの仕様をご紹介し、お客様の用途に最適なセンサを選定するための役立つ情報をお届けします。
以下の表では、特定のセンサシリーズ内ではなく、センサの種類ごとに比較を行っています。例えば、感度は中程度と記載されていても、そのセンサの種類内では異なる場合がある点にご留意ください 。
アプリケーションに適したセンサの選び方
熱流束の測定を検討する際には、以下の点についてご考慮ください。
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1.想定される熱流束と温度は?
測定に必要なレンジを正確にカバーするセンサの選択が重要です。例えば、微小な熱流束を測定する場合に、過剰に広範囲のレンジを持つセンサを選択する必要はありません。Huksefluxのセンサは、1W/m2 から 1,000,000W/m2 の範囲で多様なレンジに対応しています。
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2.環境に関する要求条件は?
熱流束測定環境において、センサが太陽放射、腐食性化学物質、湿気などにさらされる可能性のある環境条件を考慮する必要があります。また、産業用途では特定の認証が求められる場合があります。
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3.どのような出力が必要か?
熱流センサは通常、ミリボルト単位の微小信号を発生しますが、この信号はお客様の計測・データ収集システムで測定される必要があります。場合によっては、センサとデータ収集システムの間でコンバータが必要となることがあります。
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熱流センサ ラインナップ
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1. 薄膜熱流センサ(FHFシリーズ)
FHFシリーズおよびその他の熱流センサを理解するためには、まずサーモパイルの概念と動作原理を理解する必要があります。
Huksefluxの熱流センサの基本構成要素はサーモパイルであり、2種類の異なる導体と薄い材料層を交互に配置して構成されています。この薄い層を挟んで温度差を測定することで、電圧出力信号が生成され、熱流束が算出されます。FHFシリーズの特長は、薄膜の製造方法とその機能性にあります。FHFシリーズは、熱抵抗および感度変化を伴うことなく、一定の半径まで曲げることが可能です。FHF薄膜熱流センサ内部では、複数の小型サーマルスプレイダーがセンサを覆い、導電層を形成しています。このサーマルスプレイダーにより、FHFシリーズでは測定の熱伝導率への依存度が低減され、センサの感度を環境から独立して維持されます。多くの競合センサにはサーマルスプレイダーが搭載されておらず、この点でHuksefluxのセンサーは優位性があります。
Huksefluxの最新熱流束センサFHF06のサイズは25mm×50mmです。高感度で柔軟性があり、薄型でありながら非常に高い温度にも耐えることができます。従来製品であるFHF05シリーズも薄型で高感度かつ柔軟性に優れていますが、FHF06ほどの高温域での使用には対応していません。FHF05シリーズには5つのサイズ(10×10、15×30、50×50、15×85、85×85mm)があり、様々な用途に応じて熱流束の測定が可能です。
例えば、チップのような小型電子機器の熱流束測定には、10mm×10mm サイズのFHF05が適しています。
一方、15mm×80mm サイズのFHF05は、特定の半径を持つ配管からの熱流束測定に有効です 。FHF05シリーズには、ヒーター付きの自己校正センサ(50mm×50mm および85mm×85mmサイズ)もラインナップされています。ヒーターを使用することで、センサを取り外すことなく、使用中にセンサの機能性や安定性を自己確認することが可能です。
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2. シュミットボエルターゲージ(SBG)、ガードンゲージ(GG)
シュミット・ボエルターゲージ(SBG)とガードンゲージ(GG)は、設計や製造方法に若干の違いはあるものの、非常に類似した特性を持つセンサです。両者ともに熱流束の測定を目的としています。主な設計上の違いとして、ガードンゲージは一般的に、円形の水冷式本体に薄い金属箔が取り付けられた基板を有しています。一方、シュミット・ボエルターゲージは、通常、黒化されたサーモパイルを備えた水冷式センサを特徴としています。
SBGシリーズは、ガードンゲージとシュミット・ボエルターの両方のセンサ技術を統合しています。薄膜技術(GG)とサーモパイル技術(SBG)の組み合わせにより、熱センサ業界において独自のセンサが実現されています。SBGおよびGGシリーズは、熱流束が主に放射によって支配される環境での測定向けに設計されており、そのためこれらのセンサは主に火災試験や耐火試験に用いられます。このような高熱流束環境において他のセンサを使用した場合、損傷や機能不全のリスクが高まる可能性があります。GG01はSBGシリーズよりもさらに高い熱流束に耐えることが可能ですが、その代わりに応答速度は比較的遅いという特性を有しています。
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3. 熱流板(HFPシリーズ)
Huksefluxの熱流板は、熱流束測定用のセンサとして、世界的に高い評価を受けている製品の一つです 。土壌、壁、窓、建物の外壁など、多岐にわたる場所の熱流束測定に利用されています。Huksefluxは、総熱抵抗を最小限に抑えるため、セラミックとプラスチックの複合素材で作られた本体を持つHFPシリーズを開発しました 。この高感度な熱流センサは、ごく微細な熱の流れも正確に測定することを可能とします。特にHFP03はHFP01と比較してさらに高感度な特性を有しています 。HFP03の高い感度は、複数のHFP01センサを電気的に直列接続することでも実現可能です。高感度なデバイスは、入力信号の微小な変化や低いレベルを検出する用途において特に有効であり、土壌測定のように小さな信号変化を検出する際に非常に役立ちます。
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4. 工業用途向け熱流センサ(IHF / HFSシリーズ)
工業用途向けの熱流センサは、通常、高温の工業環境での使用を目的として設計されています。これらのセンサは、極端な環境、高圧、水への曝露に耐えるように堅牢に設計されており、標準的な熱流センサと比較して高い耐久性を有しています。
センサ内部は完全なステンレススチール製のボディによって保護されており、IHFシリーズは非常に頑丈な構造となっています 。IHFセンサは、サーモパイルとK型熱電対で構成されています。サーモパイルは部分的な熱流束を測定し、K型熱電対はIHFが取り付けられている表面の絶対温度を測定します。
HFS01も工業用途向けの熱流センサですが、IHFセンサとは異なり、水冷式であり、黒色塗装された受光面を有しています。このセンサの主な用途には、炎の研究、流動層、集光式太陽光発電などがあります。IHF01はIHF02よりも10倍広い測定レンジをカバーしていますが、IHF02は感度が25倍高いという特性を持っています。
より正確な熱流束測定のための8つのヒント
熱流束の測定は、時に複雑な課題を伴うことがあります。センサ自体が測定対象の熱流束に影響を与え、正確な値を得ることが困難になる場合もございます。 また、センサ周囲の環境、特に周囲の材料の熱伝導率も、センサの感度に影響を及ぼす可能性があります。
適切なセンサを選定した後には、その正しい設置が極めて重要です。ここでは、熱流測定の精度を最大限に高めるための8つのヒントをご紹介いたします。
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1周囲環境を代表する場所を選定する
正確な測定値を得るためには、熱流センサを取り付ける位置が、周囲の状況を適切に代表しているか否かを考慮することが重要です。大型の熱流センサはより全体的な結果を示しますが、小型センサは通常、より正確かつ局所的な結果をもたらします。熱のプロセスは均一でないことが多いため、ある一点での測定のみでは誤った結論を導き出す可能性があります。全体像を正確に把握するためには、広範囲にわたる複数の測定値の平均を取ることを推奨いたします。
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2熱流センサと取り付け面の間に空気の層を作らないようする
熱流センサを設置する際は、センサと周囲環境との間に強固な熱的結合が確立されていることを確認することが重要です。微細な空気の層が存在するだけでも、センサが熱を正確に測定する能力に著しい影響を及ぼす可能性があります。これを回避するためには、空気の層を除去し、接着剤、両面テープ、グラファイトシートなどの方法を用いて隙間を埋める必要があります。
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3表面の色を考慮する
放射熱流を測定する熱流センサを使用する際には、センサ表面の色を考慮することが重要です。これは、物体の熱の放射、吸収、反射能力に影響を与えるためです。必要に応じて、センサ表面を塗装することで正確な測定値を確保することが推奨されます。光沢のある金属表面は、赤外線と可視光の両方を反射しますが、可視光の色が異なっていても、遠赤外線領域ではほとんどが「黒色の吸収体」または「黒色放射体」として振る舞う点に留意してください。
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4周囲環境を代表する場所を選定する
熱流センサは、取り付けた場所の熱の流れに影響を与える可能性があるため、熱抵抗の低いセンサを使用することが最適な方法です。FHF薄膜熱流センサは、薄く、熱抵抗が低い設計がされています。この低い熱抵抗により、実際の熱流を過剰または過少に測定することを防ぎ、信頼性の高い測定を可能とします。
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5熱流センサと取り付け面の間に空気の層を作らないようする
センサは室温(TCAL)で校正されます。通常、センサの感度は、温度が1ケルビン変化するごとに約0.15%変化する性質を有しています。室温よりも高い温度または低い温度で測定を行う際には、この温度による影響について確認することが重要です。一般的には、温度による調整には「(T−TCAL)」を用いた線形補正が適用されます。ただし、HuksefluxのFHF05SCセンサのように、すでに温度依存性が補正されている製品もございます。
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6信号グランドに気を付ける
サーモパイルによって生成される信号は、通常マイクロボルトの範囲に収まる微小な直流(DC)電圧です。この信号は、ノイズなどの外部要因に対して非常に敏感であるため、それらに対する耐性を確保する必要があります。これを実現するためには、接地(グランド)とシールドに特に注意を払うことが重要です。まず始めにできる有効な対策として、信号線が周囲の環境から適切に絶縁されていることを確認することが挙げられます。これにより、グランドループの可能性を排除し、湿気からも保護することが可能となります。
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7微小な影響を避けるためにサーマルスプレイダー付きセンサを使用する
サーモパイルセンサが直接環境にさらされる場合、微小な影響が測定結果に大きな誤差をもたらすリスクがあります。ミクロなスケール(サーモパイルのグリッドのサイズ)では、局所的な熱流束が歪み、サーモパイルを通過する傾向が顕著になります。その結果、センサの感度が周囲の熱伝導率に依存して変化するため、校正が有効ではなくなってしまいます。金属カバーを使用したサーマルスプレイダーは、この問題に対する実証済みの対策です。熱流はまず金属板に当たり、サーモパイルは常に一定の熱環境に保たれます 。HuksefluxのFHF05シリーズやFHF06などのセンサにはこのサーマルスプレイダーが備わっているため、この点についての心配は不要です。
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8エッジ効果による誤差を避けるためにガード部を設けたセンサを使用する
熱流センサは、特にその端部において熱の流れを歪める可能性を秘めています。これにより、熱が周囲の素材ではなくセンサを迂回してしまう現象が発生し得ます。このような「エッジ効果」による誤差を回避するためには、ガード部の設置が必要です。ガード部とは、センサの感部(信号を発生させる部分)の周囲に設けられた、信号を発生させない領域のことです。HuksefluxのFHF05シリーズ、FHF06、HFP01などのセンサにはこのガード部が設けられているため、この点に関する懸念はございません。